静かに進んでいく“目覚めの道”第4話を紡ぎます。
テーマは、「沈黙の中で育つ、決意」
“言えなかった自分”と“気づいてしまった自分”の間で揺れる青年が、小さくても確かな一歩を踏み出します。
目覚めの道 ― 第4話:父との沈黙、そして小さな決意
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あの日の夜。自分の中からこぼれた“本当の声”。
それを聞いた青年の心に静かな波が生まれていた。
「私は、ここにいる。」
自分が自分に向けて語った言葉。
誰にも届かないその小さな声は、
しかし確かに、彼自身の奥深くに染み渡っていた。
翌朝、家の中は静かだった。
朝食の膳に向かい合う青年と父。
湯気の立つ味噌汁の奥で、二人の間に沈黙が広がっていた。
「来週から、長の会合に出てもらう。
そのつもりで心の準備をしておけ。」
父は変わらず、淡々と言った。
その声に、かつての自分ならただ頷いていただろう。
けれど、今は違った。
青年の胸に、あのカーリの言葉が甦る。
――「あなたが、あなたを裏切ったら、
あなたはどこに帰ればいいの?」
言葉が、喉の奥で揺れていた。
出そうになっては、また引っ込んでいく。
沈黙。
その時間は、どこまでも長く感じられた。
やがて青年は、スッと顔を上げた。
そして、ほんの少しだけ――ほんの少しだけ、言った。
「…父上。
少しだけ、時間をいただけませんか。」
それは拒絶ではなかった。
でも、従順でもなかった。
自分の“真ん中”に立ち、
まだ定まらない足で、それでも一歩、踏み出した――そんな声だった。
父は箸を止めたまま、しばらく動かなかった。
やがて目だけをこちらに向け、短く言った。
「…考える時間が必要か。」
青年は、うなずいた。
それだけだった。
けれど、その沈黙の中には、確かな変化の兆しがあった。
父の背中は、今も大きく、厳しかった。
けれど、かすかに――ほんのかすかに、その背が揺れたような気がした。
その夜、再び林の入口へ。
木々は風に揺れ、月が高く浮かんでいた。
仏陀の姿はない。
けれど、また風の中に、心の声が聴こえてきた。
「自分を生きるとは、小さな決意の連続である。」
青年は、深く頷いた。
“言えなかった”昨日の自分。
“ほんの少しだけ言えた”今日の自分。
どちらも、自分だ。
だからこそ、進める。
灯は、また少し大きくなった。
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次回は
第5話:仏陀、再び現る ― 沈黙の意味を問う
青年が再び仏陀と出会い、「沈黙の中にある真実」について対話を交わします。
“語らないこと”の力と、“語れないこと”の違いに気づく回です。
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